 |
● 多発性関節炎髄膜炎症候群 |
2003年、かつて「不明熱」と診断されていた犬の約20%が最終診断として、免疫介在性多発性関節炎であったとの報告がありました。我々も時折、多発性関節炎によって発熱を呈している犬の症例に遭遇することがあります。今回は多発性関節炎に加えて髄膜炎を併発しており、症状としては非典型的ながら多発性関節炎髄膜炎症候群と診断したウエルシュ・コーギー・ペンブロークについてご紹介します。
*下記の動画を閲覧するにはWindowsMediaPlayerのプラグインが必要です。
|
|
|
|
|
|
はじめに 多発性関節炎髄膜炎症候群とは |
主症状は発熱、疼痛、硬直であり、ときに神経症状をしめします。国外での報告ではありますが、ワイマラナーやバーニーズ・マウンテン・ドッグ、秋田犬に多いとされています。診断は対称性非びらん性関節炎に加えて脳脊髄液(以下、CSF)にて中枢神経系の炎症を示唆する所見が得られることで得られます。免疫抑制量の副腎皮質ステロイド剤に反応し、通常予後は良好ですが、他の免疫介在性疾患と同様に再発は常におこりえます。また、一部の症例では(特に秋田犬において)動脈炎を併発し、予後不良であることが知られています。
|
症例 |
ウェルシュ・コーギー・ペンブローク 11ケ月齢 雄 各種予防済み
|
主訴および病歴 |
10日前より元気食欲低下がみられ体温は40〜41℃を推移していました。下痢や嘔吐、呼吸器症状は認められませんでした。また、興奮した後に眼球が下方へ変位することがあったとのことです。皮下補液、抗生物質による治療に対し、著効が見られなかったため、精査を目的に来院されました。
|
検査所見および診断 |
来院時歩様、意識レベルは正常でした。
四肢に熱感や腫脹はみられませんでした。
体温39.1℃であり、神経学的検査において、頭部を上方へ変位させた際に右眼球の外腹側への変位が認められました(動画1)。
動画1
(Windows Mediaファイル形式:約3.2MB)
【血液検査】
白血球数(26200/μl うち分葉核好中球92%、桿状核好中球2%、リンパ球4%、単球2%)、C反応性蛋白(以下、CRP)値(10.0mg/dl)の上昇が見られました。 BUN、Cre、ALP、AST、CPKの各値に異常は見られませんでした。
|
【眼底検査】
網膜血管の蛇行は見られましたが、血管炎の所見は得られませんでした。(図1)
病歴、身体検査、血液検査にて炎症巣が判明しなかったことから、炎症部位の探索を目的に、麻酔下にて頭部CT検査、CSF検査、関節液検査を実施しました。
【CT検査】
明らかな異常は認めらませんでした。
|
【図1:眼底検査】
 |
【関節液検査】
左右膝関節よりやや赤色で粘稠性が低く肉眼的に異常な関節液(図2)が採取され、塗沫上ではリンパ球主体の細胞数の増加(76800/μl)が認められました(図3)。細菌培養結果は陰性でした。
左右手根関節、左右足根関節からは異常な関節液は採取されませんでした。
【CSF検査】
多核球主体の細胞数の増加が認められました。
上記の所見より、本症例を多発性関節炎髄膜炎症候群と診断しました。
|
【図2:関節液】

【図3:リンパ球主体の細胞数の増加】
 |
|
治療および経過(図4)
|
免疫抑制量の副腎皮質ステロイド剤の投与にて、第2病日より元気食欲の回復がみられました。
なお、関節液の細菌培養結果が明らかになるまでは、ドキシサイクリンを併用しました。第7病日には神経学的検査時の眼球位置の異常は残るものの、体温、CRP値は明らかに低下したため、ステロイド剤を漸減していき、第21病日にはCRP値は基準値(0-1mg/dl)内となりました。
現在、元気食欲は非常に良好であり、さらに副腎皮質ステロイド剤の漸減をしながら経過観察を行っています。
【図4】治療および経過
|
おわりに |
|
今回の症例では典型例と異なり、明らかな疼痛や歩様異常がみられませんでした。
発熱と軽度の神経症状のみを症状としていましたが、このような場合にも、多発性関節炎(および髄膜炎症候群)を鑑別する必要があり、そのためには関節液の検査やCT、CSFの検査が有用であると思われます(特に、関節液の検査については症例によっては全身麻酔の必要性がないこともあります。また、今回の症例のようにCT検査にて異常が認められなかった場合にも、CSF検査にて髄膜炎の存在が示されることは、時としてあります。)
今回の症例については、今後、副腎皮質ステロイド剤からの良好な離脱を治療の目標として、治療を進めていく予定です。
|
|